ビルガー・カイピアイネンの500点限定プレート

ビルガー・カイピアイネンの500点限定プレート

珍しいアイテムが入荷したのでご紹介です。

500点限定のカイピアイネンのプレート

ビルガー・カイピアイネンが1954〜1958年に製作した500点限定のアートプレートです。

ビルガー・カイピアイネン

(写真:ビルガー・カイピアイネン)

ビルガー・カイピアイネンは、1915年にフィンランドで生まれ、フィンランドのアート・スクール、特にヘルシンキのアート・アンド・デザイン大学(現在のアアルト大学)で学び、その後、フィンランドの著名なセラミックメーカーであるアラビア工場で働き始めました。

カイピアイネンはアラビア工場で1930年代後半からキャリアを開始しました。第二次世界大戦の影響で文化活動が二次的なものと見なされて、公的な支援や資源が制限されました時期もありました。戦争の悲惨さや困難な時期を経験したアーティストはしばしば、自然の美しさや生命の尊厳など、より普遍的かつ希望に満ちた主題に惹かれることがあります。カイピアイネンの作品に頻繁に見られる鳥や花や楽園といったモチーフは、このような普遍的な美への志向を反映していると考えられます。

この時期にカイピアイネンは、釉薬や形状の研究を積極的に行い、自然をモチーフとした独特な作品を多数制作しています。カイピアイネンの作風は、芸術性と実用性を兼ね備えたセラミックの可能性を広げるものであり、北欧デザインの世界において注目されるようになりました。カイピアイネンのこの時期の代表作には、鳥や植物をモチーフとした独創的な陶器があります。

検品をするカイピアイネン

(写真:検品をするカイピアイネン、左側の男性)

カイピアイネンの作品といえば名作『パラティッシ』が良く知られていますが、パラティッシは1969年に発売されたものです。キリスト教的な世界観の楽園を描いたものですが、実はパラティッシ登場の10年以上前から神話的なモチーフを追求していました。こちらのプレートはまさにカイピアイネンの創作の原点が感じられる逸品です。

希少 1968年製 ARABIA パラティッシ(Paratiisi)オーバルプレート21cm 皿 ARABIA

(写真:不朽の名作パラティッシ)


ロールストランドでの在籍中にカイピアイネンは彼独自のスタイルと技術を大きく発展させたと言われています。ロールストランドでは一般的な産業陶磁器の生産とは一線を画す、芸術的なセラミック作品の制作に取り組みました。この時期に彼が開発した特徴的なスタイルは生涯のキャリアを通じて続くテーマとなり、後の作品に大きな影響を与えました。


ロールストランドでのカイピアイネンの仕事は「芸術と工業デザインの間の境界を曖昧にすること」でした。プレートは芸術作品でありながら日常的な什器でもあり、使うことにも眺めることにも喜びが生まれるという北欧食器特有の使い方の確立に貢献したのです。カイピアイネンは特に釉薬と色彩の実験により、非常に個性的な表現を追求したことで知られています。

 

カイピアイネンのりんごの絵

(写真:カイピアイネンが好んで用いたりんごのモチーフ)

りんごは旧約聖書に登場するアダムとイヴが食べた禁断の果実を表しています。ちなみに、あまり知られていませんが、聖書にはりんごは登場せず単に「禁断の果実」としか書かれていません。りんごは後世になって広まったヨーロッパ的価値観で、スラブ語圏の東欧では禁断の果実はブドウの実とされることもあるそうです。

話を戻しますが、カイピアイネンが独特だったのは作り込まれた装飾です。北欧デザインでは一般的にデザイン性とシンプルさはセットで語られますが、カイピアイネンの作品は突出して装飾性が高く、シンプルモダンといわれる北欧デザインとは一線を画すものです。

カイピアイネンのユニークピース1
(写真:カイピアイネンのユニークピースのプレート1)
カイピアイネンのユニークピース2

(写真:カイピアイネンのユニークピースのプレート2)

 

それでいて快活として青空のような清々しさがデザインにあるかといわれると、決してそうでもないのです。カイピアイネンはダリを始めとするシュールレアリスムやダダの影響を受けていたと言われますが、心象風景を描写したようなデザインは決して美しさだけでは語れないある種の薄暗さや、こういってよければ不気味さすらあります。

カイピアイネンの作品は日本でも大変人気がありますが、それはパラティッシやスンヌンタイなどアラビア食器ファンなら誰もが知るアイテムだと思います。しかし世界的にヒットした朗らかなデザインの背景には、カイピアイネン自身の葛藤や楽園への渇望があり、彼自身の芸術性をもっとも表していると思われるユニークピース(一点ものの作品)は実は暗い色調のものが圧倒的多数なのです。

(写真:パラティッシと並び根強い人気がある「スンヌンタイ」)

あらためて今回の500点限定プレートを見ても、決して明るいだけはなく、ある種の暗さや不気味さも感じられます。しかし作者カイピアイネンとしては、これは楽園の風景の一部なのです。

ユニークピースを見てもわかるように、陶板という四角い表現ではなく、あくまでプレートというスタイルにもこだわるのがカイピアイネンの流儀です。一般的な北欧デザインでは、大柄なサイズのセラミックアートは陶板という形式になりますが、カイピアイネンは基本的に「お皿」という枠組みから離れることをしなかった作家です。

500点限定プレートも60cmを越える幅でテレビくらいの大きさがありますが、一応お皿です。そういった使い方をされる方がいるかはわかりませんが、一応サービングプレートとしても使えます。

ビルガー・カイピアイネンがユニークピースを作る際にお皿という形式にこだわった理由には、複数の側面が考えられます。

繰り返しになりますが、カイピアイネンは日常使いの器としての機能性と、美術品としての価値を兼ね備えた作品を作りたいという願望を持っていました。お皿は、その両方の要素を兼ね備えることができる形式です。

セラミックの伝統的な形式とモチーフを尊重しつつ、それを現代的な解釈で再構築することもカイピアイネンの興味関心の一つでした。お皿は古来から使われてきた基本的な形式の一つであり、この伝統的なメディアを通じて、彼は新しい技術や表現を探求していたといえます。

お皿は彼にとって特に表現力豊かなキャンバスだったと言えるでしょう。

 

 

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