北欧ヴィンテージ食器のコンディションについて

当店で取り扱う北欧ヴィンテージ食器やガラス・陶器製品は、半世紀ほど前に製造されて、北欧の一般家庭で使用されたものとなります。なるべくきれいなものをセレクトしてお届けしていますが、コンディションが良いものであっても一度は人の手を介したものとなります。

当店で行っているコンディション評価は、新品の食器や製品を前提としたものではなく、あくまでヴィンテージ品としての評価であることにご留意ください。「半世紀ほど前の商品としては美しい状態」や「ヴィンテージ市場で流通しているもののなかでは特に状態が良い」といった前提での評価となります。当店で取り扱う商品は特に断りがない場合は、すべて製造から50年ほどの時間を経たヴィンテージ品となります。

★を用いた評価は、これまで当店が取り扱ってきた様々な商品のコンディションや、流通しているヴィンテージアイテムの一般的な使用感を考慮して、経験的におこなっています。

★によるコンディション評価の詳細については下記のページをご覧ください。

〈コンディション評価について〉

 

ペイントロスについて

北欧ヴィンテージ食器は「転写」や「ハンドペイント」という技法で絵柄が施されています。転写は一度窯で焼いた無地の陶器に転写紙(シールのようなもの)を貼り付けています。陶器そのものを焼くことを「本焼成」と呼び、また絵付け師が筆で一つ一つ絵柄を施すことを上絵付けと言います。

Transcription
(写真:転写の作業。グスタフスベリのスピサリブに転写紙を貼り付けている)

絵付け師が一点一点を筆で装飾することを「ハンドペイント」と呼びます。ハンドペイントでは色素を定着させるため器を低温で再焼成しています。ハンドペイントの北欧食器は日本的な画一性がなく筆致は自由で、ペインターの個性がよく表れるのが特徴です。

ARABIA_Valencia_1ARABIA_Valencia_2

(写真:ARABIAの王道アイテム「バレンシア」。細部を見るとペインターによって絵柄の描き方が異なる)

装飾が剥がれる「ペイントロス」と呼ばれる現象は、とくに転写紙を用いた装飾に発生しやすいです。もともとの転写紙が薄かったり、漂白剤にさらされたり、圧着が十分でないといった様々な要因で一部だけ剥がれる現象が起きます。また長年の家庭での使用によっても頻繁に擦れる箇所がハゲていくというペイントロスもあります。

paint_loss

(写真:グスタフスベリのBersåでよく見られるペイントロス。カトラリーがあたる箇所の葉っぱ柄が欠けている)

上記のペイントロスは長年の使用によって摩耗したことで発生します。北欧ヴィンテージ食器は実用本位として普段使いに供されることが多い食器です。そのため人気のあるシリーズの食器ほどペイントロスが見られることが多くあります。

一方でファイアンス焼きは絵付けを施してから本焼成を行うという古代からの技法を用いています。ファイアンスの絵柄に欠けが見られる場合、ペイントロスに留まらず本体の傷そのものである場合がほとんどです。

 

カトラリー跡について

カトラリーとはナイフ、フォーク、スプーンなど食卓用の金属製品の総称です。日本の生活様式では箸などの木製の道具を使うことが多いですが、北欧では食事を口に運ぶための道具は基本的にすべて金属製です。そのため、陶器の表面は絶えず金属とぶつかることになります。長年の使用によって、こうしたダメージは「カトラリー跡」として表面化していきます。通常、光に透かさないと見えない程度のものですが、使用感のある食器ほど細長い筋が中央付近に観察されます。

cutlery_marks

(写真:光に透かすと見えるカトラリー跡。普通カトラリー跡は中央に集まる)

ヴィンテージベルサのカトラリー跡

(写真:ヴィンテージのベルサに見られるカトラリー跡。ヴィンテージ食器は現代のものより陶器の焼成温度が低いため傷が入りやすい性質がある)

 

貫入(かんにゅう)について

陶磁器は原材料である陶土(とうど)に釉薬(ゆうやく)という植物の灰からなるコーディング液を塗り、高温で焼成されて造られます。釉薬は高温になると原料に含まれた珪石(シリカ)と呼ばれる成分が溶け出しガラス質になります。このガラス質が陶磁器の全体を薄い粘膜のように覆うことで、透明で硬いコーディングが施され、食器をキズや汚れから守ります。

焼成中の炉内の温度は約1,200度という高温になりますが、徐々に温度を下げて冷却する工程の温度管理が非常に難しく、急激に冷やしてしまうと釉薬にクモの巣状のヒビが入ることがあります。本体の陶土そのものには問題がなくても、釉薬にだけクラックが入った状態を貫入(かんにゅう)と呼びます。

(写真:色素の定着した貫入)

貫入は陶土本体への水分の侵入を許してしまうため、白い器に貫入が入っている場合、コーヒーなど濃い色の液体を注ぐと色素が定着し二度と色が取れることはありません。使用そのものには問題がなくても、器の美観は損なわれることになります。

一方で、例えば日本の茶の湯の世界においては、貫入のある茶碗に抹茶が入り込むことであじわいを生み、長年使い続けることで「器を育てる」という価値観もあります。貫入は必ずしも陶磁器の欠陥ではなく、むしろ捉え方や考え方によっては器を美しく見せる美意識にもつながります。

Penetration

(写真:天目茶碗にみられる意図的な貫入)

明確に汚れと思えるものは別ですが、貫入も場合によっては一つの味わいとして成立することがあるため、貫入があるというだけでは良い悪いという価値判断はできないこともあります。

陶板に入った貫入

(写真:陶板に入った貫入。厚めに塗られているため青い釉薬に必然的に細かい貫入が入っている。製法によるものであり特に貫入も気にならない。)

北欧の食器は貫入が生じた場合でもそのまま出荷されている例がほとんどです。ヴィンテージ食器がつくられた当時の検品体制では、貫入は製品のダメージとは見なされず正規品と同じように出荷され販売されていました。日本的な見方では貫入は傷やダメージと見なされますが北欧では瑕疵と見なされない、という文化の違いがあります。

 

支柱跡について

陶磁器の窯焼きの方法には「一枚焼き」と「重ね焼き」という二つの方法があります。一枚焼きとは、窯の焼成棚に陶磁器を一つずつ互いが触れないように並べて焼く方法です。

faience one piece kiln
(写真:一枚焼きのプレート。釉薬がかからない高台にのみ下地の赤土が見えている)

一方で重ね焼きとは、省スペースと大量生産のために、一枚のお皿の上にお皿を乗せ、更にその上にも何枚もお皿を重ねていく手法です。縦に重ねられた一枚一枚の焼き物の間には、焼台、炉台、日本ではトチンなどと呼ばれる支柱を挟み込みます。窯焼きのときに焼台に触れる箇所には釉薬がかからないため、完成した製品には重ね焼きの支柱跡である凹みが残ります。ヴィンテージの北欧食器には必ずと言っていいほどこの支柱跡が見られます。

kiln support marks

(写真:支柱が当たった部分に茶色い陶土がのぞく)

支柱跡は製品の欠陥やキズではなく、製造手法によって最初から付いているものです。ヴィンテージ商品の場合、内部の陶土がむき出しになり茶色く見える場合もありますが汚れではありません。製品の一つの特徴としてご理解ください。

Berså cup

(写真:グスタフスベリのBersåで見られる茶色の高台。汚れではなく焼成時に釉薬がかからないため下地の土色が露出している)

ARABIAのバレンシアに見られる下地の陶土の透け

(写真:ARABIAのバレンシアによく見られる下地の陶土の透け。高台は窯内部で火が回りにくいため釉薬が定着せず、土色が見える)